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創作連載小説「プレズムAI」 続(4) 

創作連載小説「プレズムAI」 続(4) 

(3)の荒筋
「ライフヒュージョンセンターへ、ようこそ」
エアカーテンを入ると同時にアナウンスが流れた。ホール空間いっぱいに芳香が漂っていた。
近年AIテクノロジーの進化は著しく、アンドロイドの様相も随分変化してきた。今日のコンシェルジュはパリジェンヌ風の女優だった。 WP1は髪を少し振り上げ、長く反り上がったまつ毛をゆっくりと瞬きさせて微笑んだ。
「それではアンドロイドではなく、プレズムAIですね」

(4)
「つきましてはプレズムAIの仕様ですが、会話の内容によって標準と特別な仕様が用意されています」
「特別な仕様と言われますと」
「標準仕様における会話の内容は、先ほどご提案いただきましたご挨拶の他に、もちろん家電のオン・オフ、お好みの音楽やテレビ番組などのチャンネル予約や選択も標準仕様に含まれております」
「では、特別仕様はどういう感じですか?」
「専門分野の情報を即座にピックアップできます。例えば歴史や物理化学など、ドクターレベルの学会誌掲載内容に対応しています。このプロフェッショナル・プレズムは当社独自のソフトです」 
「望んでいることが少し違う・・」
 順造はプレズムAIに深い専門分野を望んでいるのではない。希望は生前妻と交わしていた何気ない会話だった。アンドロイド、WP1は順造の意図を理解していない。会話の意味とその重要性を伝える必要がある。
WP1は順造にパラルームでのコンサルトを勧めた。パラルームとは、正式にはパラダイス・ルームと称し、いわゆる老後の夢を叶える部屋として使用される。
「ご都合がよろしければ、パラルームで更なる御希望の検索をさせていただきますが」  
 コンシェルジュのWP1・フランソワは、会話中における順造の瞳の網膜の血流変動から、提供した情報に満足していないことを分析していたのである。順造は脳波分析と称して電極ヘッドホンを付けられた。前頭葉から発生するアルファー波の検索の結果、順造の望むプレズムはライフタイプ仕様が適正だと解析された。標準として基本情報は入力されているが、その他個人の生活情報は自分で入力し、自ら望む人格を形成する。仕様の中で最もシンプルかつ原始的なプログラム構成に近い。魅力は個人情報の入力次第では個々の望むクローンに近い人格を再生できることだ。そうして形成されるAIクローンはまさにパラダイス的創造物だった。順造はイメージを膨らませた。工夫すれば妻と会えるかもしれないと。

「私もういいかなと思って」  
と言ってあっさりとあの世に逝った妻。もっと話したいこともあったという思いを抱きながら、ある探しのものをしていた。
「これだ」
 順造は妻が他界してからこの東側の部屋にはほとんど入ることはなかった。思い出すのが辛かったのである。書棚に膨大な冊子が重なっていた。B六サイズの小さな冊子だがかなり厚みがある。背表紙に金文字で「歳時記」と印刷してある。その下に小さく令和ニ十年と明記してある。掌の上で表紙を開いた。五年日記だった。
妻が若いころから日記を付けていることは生前から知っていた。病気や怪我などした日を除き、ほぼ毎日欠かさず書かれていた。既に記憶のない内容も多い。順造は時間の許す限りその日記を読み続けた。
読み始めてその年の春が過ぎ、夏と秋が過ぎたある日。朝日が室内の奥まで入り、三年間置いたままの家具を照らしていた。最後の歳時記の見返し紙に、落書きらしい似顔絵がある。三つ編みされた左右の髪に黄色いリボンが付いていた。にこやかな顔だった。よく読んでくれたと褒めてでもいるのだろう。
「・・・僕は君の日記を読んだのは一回だけじゃない。今日までに五回は読んだかな。おかげですっかり忘れていたことも思い出すことが出来た。もう君の思い出は暗記したかもしれない。もしかしてもう一度君と会えるかもしれないと期待して――」  
 順造は日記の記述内容の分類作業に入った。日記からは当時の世論や思想や流行などが蘇る。その内容は旅行、映画、演劇、コンサートなどの娯楽等、それらの情報を二十種類に分類し、個人用保存チップに登録した。加えてオプションのセンターの提供する広辞苑と漢和及び古典並びに流行語及び主要国六か国語翻訳等の辞典を周到した情報チップの購入を希望した。更に世界経済産業機構WEIMに加盟する各々の国ごとに、一か国当り教養情報として経済、政治、教育等十種類の専門情報を十カ国分選択した。オプションの専門情報は百種類となる。一チップ二千メロンで二十万メロン、プレズムAIは一個体二百万メロン、合計二百二十万メロン、入力費の他三年間無料メンテナンス契約料三万メロンを入れ、最終的な見積の結果総金額二百ニ十三万メロンとなった。一般サラリーマンの年収は平均二百万メロン。順造は今後の生活費を考慮し、出来れば平均年収以内に納めたかった。ニ十三万メロンの予算オーバーだった。月々の維持経費も考慮すると、高齢になってからの無謀な消費は避けなければならない。順三は意を決してライフヒュージョンセンターへ出向いた。
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キャフェ ド モザのマスターです!コーヒーと庭と花の愛好家です。「モザマスターの日記」を担当しています。
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