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創作連載小説「プレズムAI」 続(3)

創作連載小説「プレズムAI」 続(3)

(2)の荒筋
 順造はIDカードを手首にはめ、エアタクシーを呼び、ライフヒュージョンセンターへ向かった。そこは老後や退職後のライフスタイルを設計してくれる。前方に雲を突き抜ける全面ガラス張りのビルが見えてきた。建物は地上二百八十五階建て。もはや一般的となったG(次世代)型超高層ビルの耐震性はM九まで耐えられる。

「ライフヒュージョンセンターへ、ようこそ」
エアカーテンを入ると同時にアナウンスが流れた。ホール空間いっぱいに芳香が漂っていた。その奥のカウンターには女子アンドロイドのフロア・コンシェルジュが二名、正確には二個体の美女が玄関入口の方を見据えている。カウンターの下から反射美顔用照明が、それぞれコンシェルジュの顔を照らしていた。笑顔は肌の反射効果によって知的で美しく親しみに溢れている。
「おはようございます。ようこそいらっしゃいませ。ムッシュ順造、今日は何をサポートいたしましょうか?」
「おはよう」 
 順造は以前からこのセンターを利用していた。名前は顔認識で識別され、瞬時に過去の診療記録が二個体によって解読されている。個人データ―は公共機関及び一定規模にある企業間で共有できるが、個人の意思により厳格に管理されている。アンドロイドは順三の同意のもと、本人の診療履歴を掌握していた。四年に一回、体内細胞再生治療を受けている。首の第五頸椎左右に二か所の挿入口が備え付けられ、普段はシリコンネジで蓋がしてある。挿入口の一つは体内細胞の再生を、もう一方は脳細胞活性化のためのアミノ酸補填用だった。再生治療は強制的な医療制度ではなく個人の自由ではあるが、治療は保険適用が可能だった。市民のほとんどは細胞再生治療を受けている。
 近年AIテクノロジーの進化は著しく、アンドロイドの様相も随分変化してきた。今日のコンシェルジュはパリジェンヌ風の女優だった。胸にWP1・フランソワという名札を付けている。Wは性別を、P1は人格一号を標示する。この個体も順造の好みだった。
「すでにご存じだと思いますが、妻が他界し三年になります。その間なんとか一人で過ごしてきました。しかし生きる希望が消失してきました。細胞再生治療を止める選択肢もありますが、この寂しさに耐えてみたいという気持ちも残っています。そこで思い付いたのが御社のアンドロイドです。よくテレビで広告を拝見しています」
 うんうんと頷きながら話を聞く左端に座っていたアンドロイド。どうやらコンシェルジュのリーダーのようだ。うんうんと頷くのは、順造の会話をよく理解を示しているというアンドロイド特有の動作だった。順造は完成度の高いアンドロイドだと思った。
「ありがとうございます。私たちは社会のあらゆる分野で活躍しております。決して人格を脅かすようなオーバーランをすることはありません。ビジネス上又は生活面における人の代行ではなく、基本的に寄り添うことを使命としております。ところで順造様はどんなキャラクターをご希望ですか?」
「すでにこういう年齢ですので、今さら新しいキャラを求めているのではありません。そろそろもう一人の妻がいてもいいのではないかと思いましてね」
「もう一人とおっしゃいますと、例えば若い奥様とか?」
「若くなくてもいいのです。過去及び現在から未来を周到する人格を持った妻です」
「それではお痩せになった時の奥様がよろしいでしょうか? それと全く異なる?」
「申し訳ないがアンドロイドは必要ではありません。欲しいのは人格だけです。つまり話し相手を望んでいます。生前の妻と日常会話を楽しみたいのです」
WP1は髪を少し振り上げ、長く反り上がったまつ毛をゆっくりと瞬きさせて微笑んだ。
「それではアンドロイドではなく、プレズムAIですね」
「プレズムAIというと?」 
「プレ・リアリズムの略語ですが、会話能力を持ったお話し専用のAIです。AIと言っても訓練することによって生前の奥様とほぼリアルにお話が可能となります。生前奥様は何か御趣味はおありでしたか?」
「そうだなあ、食べる事かなあ」
 思わず応えたが、振り返ってみると他にも色々あった。
生前十志子は若いころから器や茶器などが好きで世界の食器を収集していた。その器で家族や友人たちと食事やお茶を楽しんでいた。十志子は順造と同様に多趣味だった。長い間順三と付かず離れず、日々同じ方向を向いて生活を共にしていたのである。妻は情報収集とその読解力に優れ、その解説は適格で分かり易い。おかげで順造は不得意な芸能関係の情報を随分楽しむことが出来た。
 今望むことはその妻の再現。アンドロイドまでは必要としない。生前と同様、いや同様までいかなくても何気ない会話を希望していた。正確な復元でなくてもいいと思う。例えば朝起きた時は「おはよう」、「今日はよく寝た」とか、過去にいつも話していたように、「今日の夢は怖かった」、「それってどんな夢?」とか、つまらないことでもいい、時には生前のように他愛無い話題で妻と大笑いしたい。

--(4)へ続く--
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キャフェ ド モザのマスターです!コーヒーと庭と花の愛好家です。「モザマスターの日記」を担当しています。
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