FC2ブログ

創作連載小説「プレズムAI」 続(2)

創作連載小説 プレズムAI 続(2)  檀一二三  

荒筋 
飛源元年、西暦2060年、北極上空のオゾンホールは地球電離層表面の八分の一までに拡大していた。三年後妻十志子は、事前に登録してあったヘブンホスピタル、自己終焉病棟で先に逝った。順造の今欲しいもの、それは、
「AIアンドロイド・・・」

妻は早々にこの世に見切りをつけた。
仕事一本で来た人生だった。その間に多少の浮気心が生じたことがあったのは妻も承知していたが、最後の一線は超えていない。妻自身も周知のことだった。ただ妻はいかに年齢を重ねようとも、夫婦の間に他の女性が入ることは許せないと日頃から主張していた。
「私、もういいかなと思ってーー」
あっけない妻の最後の言葉だった。
「結局原因は僕なのか・・・」
すっかり冷めた食卓テーブルの上のコーヒーカップを片手で持ち、壁際にあるガラス食器棚の器を呆然と眺めながら順造は思いに耽った。三人の子供もそれぞれ家庭を持ち、その子供達も独立しかつ高齢だった。生きるために働いたのか、あるいは働くために生きてきたのか。この長い夫婦として暮らした時間は一体何だったのだ。妻と付き合い始めた期間を入れると凡そ九十年。確かにもういいかなと言われてもそんなにおかしい年齢でもない。そうだとしてもやはり空しい。
順造はIDカードを手首にはめ、エアタクシーを呼び、ライフヒュージョンセンターへ向かった。そこは老後や退職後のライフスタイルを設計してくれる。
手配したエアタクシーのドライバーはアンドロイドだった。車はADAS(先進運転支援システム)を搭載したCAV(コネクテッド・オートノマス・ビークル)車で、本来車は自動運転でドライバーは不要である。同乗したアンドロイドはライフヒュージョン社のアシストサービスの一つで、自然災害などによる緊急時の対応も兼ねている。ドライバーはその日のタクシー送迎プログラムによって自由に選べる。順造は美女の中でも少々運賃が増すが、往年の大女優アメリ風の運転手を指名した。
遥か北のほうに富士山の白い頂上が覗いていた。
ドライバーが話しかけてきた。
「今日は奥様とのご旅行ですか?」
順造はその質問に応える余裕もなく、しばらくは彼女の上質な笑顔を楽しむことにした。順造は無言で微笑みを浮かべ、流れる車窓の景色に身を任せた。
前方に雲を突き抜ける前面ガラス張りのビルが見えてきた。建物は地上二百八十五階建て、一階から九十九階までは官庁金融商業集合施設、百階以上はタワーマンションになっている。もはや一般的となったG(次世代)型超高層ビルの耐震性はM九まで耐えられる。
従来の市街地にあった既存住宅は、都市条例によってG型超高層マンションに集合され一都市を形成していた。その結果、町郊外は荒涼とした原野が広がっている。
産業AIロボットの普及は人の労働負担を軽減すると同時に、企業はAI管理のための高い能力を持つ人材を求めた。中間労働者層のニーズは徐々に減少し、新たに生じた経済格差は、新生児の出生率減少の大きな要因となった。人口減少対策は国の優先すべき政策だった。
センターのショールームは十階部分にある。その水平レベルは、温暖化による海抜ゼロ予定ラインでもあった。エアタクシーはその入り口のホールにゆっくりと滑走しながら停車した。

--(3)へ続く--
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

モザマスター

Author:モザマスター
キャフェ ド モザのマスターです!コーヒーと庭と花の愛好家です。「モザマスターの日記」を担当しています。
檀桃源です。この窓を借りて「エッセーと古典」をシェアリングしています。

キャフェ ド モザのホームページ:www.cafedemoza.com

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
プロフィール

モザマスター

Author:モザマスター
キャフェ ド モザのマスターです!コーヒーと庭と花の愛好家です。「モザマスターの日記」を担当しています。
檀桃源です。この窓を借りて「エッセーと古典」をシェアリングしています。

キャフェ ド モザのホームページ:www.cafedemoza.com

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR